「記憶の壁」── 12日間・8言語・128通が語ったこと
2026年5月27日から6月7日までの12日間、《記憶が罪に問われるとき》の会場の一面には、来場者の方々がメモを書き残せる 「記憶の壁」 が設けられました。 会期を終えた本展で、私たちはその壁に書き残された 128通 のメモを書き起こし、原文・繁体中文・日本語・英語の4言語で記録し、カタログ化しました。 その128通には、私たちが事前に想定していたよりも、はるかに広い場所からの、はるかに多様な声が記されていました。
数字で見る記憶の壁
| 記録された留言 | 128通 |
| 使用された言語 | 8言語(繁体中文・簡体中文・中国語(書体特定なし)・日本語・英語・韓国語・ロシア語・モンゴル語) |
| 会期 | 12日間(2026年5月27日–6月7日) |
| 設置場所 | 早稲田奉仕園 スコットホールギャラリー|第4章「誰の記憶か」 |
| 記録方法 | 写真撮影・書き起こし・翻訳(繁体中文/日本語/英語) |
| 公開 | 本ページにて全128通の代表的留言と全カタログを公開(個人情報は伏せ) |
壁が語ったこと
1. 8言語の現場としての展示
128通のうち、約60%にあたる76通が中国語(繁体・簡体・書体特定なし)、約26%にあたる33通が日本語で書かれました。残る19通には、英語、韓国語、ロシア語、モンゴル語、そして中・日・英をまたぐ二言語または三言語のコード切り替え(code-switching)が含まれていました。
その壁の上では、香港の読者と中国本土の読者が、それぞれの書体のまま並列で書き残しました。「中国語」を一本化することなく、繁体字と簡体字が同じ壁の上に共在する ── これは現在、香港・中国本土・在外華人コミュニティのいずれの公的空間でも、ほぼ実現していない光景です。
韓国・ロシア・モンゴル語による留言は、本展の届く範囲が、想定していた東アジア華人圏・日本語圏を越えていたことを示しています。これは派手な「国際化」ではなく、誰かが東京の街中で本展を見つけ、入り、なにかを書き残して帰った、その静かな事実の集積です。
2. 政治的レジスタの多様性
128通の留言は、政治的にひとつの方向に揃ってはいません。
- 香港本土派的なスローガン(「光復〇〇 時代革命」「香港加油」)
- 中国民主化の汎中華的フレーム(「CCP、習近平 下台!」「中共倒台」)
- 中華民国・台湾の民主主義的伝統との連続性(「三民主義 統一中国」「台湾加油」)
- 純粋な人道主義的・個人的な祈り(「いつまでも香港が香港でいつづける様、祈っています」)
- 自己言及的な皮肉と批評(「この展覧会を習近平はとても嫌っている」)
- 描画・象徴による留言(香港区旗、ろうそく、卍と中共の並置 など)
これらは互いに同意しません。むしろ、互いに緊張関係にある政治的立場 ── 香港localist、汎中華民主派、台湾的民主、人道的、批評的 ── が、同じ壁の上で共在しています。
本展は当初から「権力による記憶の抹消への抵抗」という共通の軸を設定しましたが、この軸のもとに集まった声がひとつの政治的結論に収斂しないこと、むしろ多様な立場が共在することを許す場であったこと ── それが、128通の留言が記録した最大の事実です。
3. 越境する読み手たち
留言を書き残した方々の背景は、メモ自体には記録されていません。それでも、
- 韓国語と英語を交えた在韓の読者
- 中・日二言語で書いた在日華人
- 日本語で長文を残した方々の多くは、おそらく日本人か日本語に親しい読者
- そして本展について自発的に外部に書き残した方々(Tokuyu Ko 氏の記事 等)
そうした個別の証拠を重ねていくと、記憶の伝達は会場の壁の前で完結したのではなく、書き手の手元から、それぞれの場所と言語のなかへ運ばれていった ことが見えてきます。
これは、本展が目指した「香港で消えゆく語彙を、まだそれが流通する日本語の場へ」という当初の目的が、想定よりも広い範囲で、想定よりも多くの言語で実現したことを意味します。
以下、128通の留言のうち、本展の論点を映し出す代表的な留言を、テーマ別に紹介します。すべての留言は原文・日本語訳・英訳併記。書かれた時点での原文をそのまま記録し、明らかな書き誤り以外は手を加えていません。 全カタログ(128通すべて)は本ページ末尾よりご覧いただけます。
1. 記憶を意志として ── 「忘れない」
最も多く現れた主題は、「忘れない」「記憶する」「伝える」という意志そのものでした。「忘れない」という単純な動詞が、記憶することが罪に問われ得る時代の文脈のなかでは、すでに政治的行為になっています。
> #014> |繁体中文 > 原文:> 不想回憶,未敢忘記 > 日本語訳:> 思い出したくはないが、忘れることもできない > Unwilling to recall, yet not daring to forget.> ※ 1990年代から香港の六四追悼で広く使われてきた定型句
> #041> |繁体中文 > 原文:> 永遠不會遺忘 他們也不可能讓我們遺忘 2026.6.6 > 日本語訳:> 永遠に忘れない、彼らに忘れさせることもできない 2026.6.6 > We will never forget; nor can they make us forget.
> #082> |日本語 > 原文:> 記憶は武器。 > Memory is a weapon.
> #091> |繁体中文 > 原文:> 被清洗掉的,並不意味著從未發生,並不意味著不存在。 > 日本語訳:> 消し去られたからといって、起きなかったことにはならない。存在しなかったことにもならない。 > What has been purged does not mean it never happened, nor that it does not exist.
2. 名指しの声
中共・習近平・特定の政策を直接名指して批判する留言が20通以上記録されました。香港・中国本土の公的空間ではほぼ不可能な発話が、東京の会場では普通に書き残されていきました。
> #002> |簡体中文 > 原文:> 這個展覽 習近平很不喜歡 > 日本語訳:> この展覧会を習近平はとても嫌っている > Xi Jinping really dislikes this exhibition.
> #004> |中・英混合 > 原文:> CCP, Xi Jinping 下台! > 日本語訳:> 中国共産党、習近平は退陣せよ! > CCP, Xi Jinping step down!
> #067> |繁体中文 > 原文:> 維尼很不喜歡〔小熊維尼圖〕 > 日本語訳:> プーさんはとても嫌っている〔くまのプーさんの絵〕 > Winnie really dislikes [this] [Winnie-the-Pooh drawing].> ※ プーさん=習近平の暗喩
> #100> |簡体中文 > 原文:> 不要核酸要吃飯 不要文革要改革 不要封城要自由 不要領袖要選票 不要謊言要尊嚴 不做奴才做公民 > 日本語訳:> PCR検査ではなく食う糧を 文化大革命ではなく改革を ロックダウンではなく自由を 指導者ではなく投票を 嘘ではなく尊厳を 奴隷ではなく公民であれ > We want food, not PCR tests; reform, not Cultural Revolution; freedom, not lockdowns; the vote, not a Leader; dignity, not lies; to be citizens, not slaves.> ※ 2022年10月、北京・四通橋に掲げられた抗議スローガン。ゼロコロナ政策末期、中国本土での最大規模の公然たる抗議の言葉。
> #110> |簡体中文 > 原文:> 捍衛記憶,拒絕遺忘!清算反人類的血腥暴力恐怖組織——中共!——一個河南人 > 日本語訳:> 記憶を守り、忘却を拒め!人類に背く血なまぐさい暴力テロ組織——中共——を清算せよ!——ある河南人 > Defend memory, refuse to forget! Hold to account the bloody, violent terror organization that is against humanity — the CCP! — A Henan person.
3. 東アジアの連帯
異なる立場 ── 香港、台湾、ウイグル、チベット、内モンゴル、そして日本 ── から来た留言が、壁の上で互いに呼びあう形になりました。それぞれの主張が完全に一致しなくても、同じ壁の上で並んで存在しています。
> #022> |簡体中文 > 原文:> 上海・澳門・南蒙古・西藏・東突厥斯坦・台灣・巴蜀利亞・閩越國・大粵國・滿洲/友好鄰邦 永無歧視 民眾安樂 > 日本語訳:> 上海・マカオ・南モンゴル・チベット・東トルキスタン・台湾・巴蜀利亜・閩越国・大粤国・満洲/友好な隣邦であれ、差別なく、民は安楽に > Shanghai, Macao, Southern Mongolia, Tibet, East Turkestan, Taiwan, Bashulia, Minyue, Greater Yue, Manchuria — friendly neighbor states, never discrimination, people at peace.
> #063> |日本語 > 原文:> 昨日の香港 今日の台湾 明日の日本 > Yesterday's Hong Kong, today's Taiwan, tomorrow's Japan.
> #071> |簡体中文 > 原文:> 在紀念六四的時候,也希望人們記得1981年的內蒙古學生運動……2020年後,蒙古語教育被禁止。我們都不能用蒙古語發聲了。 > 日本語訳:> 六四を記念するこの時に、1981年の内モンゴル学生運動も思い起こしてほしい……2020年以降、モンゴル語教育は禁止され、私たちはもうモンゴル語で声を上げられなくなった。 > While commemorating June 4, I also hope people remember the 1981 Inner Mongolia student movement. After 2020, Mongolian-language education was banned. None of us can speak out in Mongolian any more.
> #073> |中・日混合 > 原文:> 港人加油 台灣加油. 六四. 語りつぎましょう! > 日本語訳:> 香港人がんばれ 台湾がんばれ。六四。語り継ぎましょう! > Stay strong Hongkongers, stay strong Taiwan. June 4. Let's pass it on!
> #120> |日本語 > 原文:> 東アジアに、自由・民主・人権の光を灯し続けましょう。そのために、日本、台湾、中国・香港の連帯を続けよう! > Let's keep the light of freedom, democracy and human rights burning in East Asia. To that end, let's keep up the solidarity of Japan, Taiwan, China and Hong Kong!
4. 越境してきた声 ── 想定の外から
韓国、ロシア、モンゴル、英語圏、そして中国本土の各地(広州、河南、西安など) ── 当方が事前に想定していた華人・日本人コミュニティの外側から、本展を見つけ、留言を残してくださった方々がありました。
> #003> |韓国語+英語 > 原文:> 전시를 통해 연결되는 시간을 부여받았습니다. 귀한 exhibition! "Stop letting people deprived" > 日本語訳:> 展示を通して、つながる時間をいただきました。貴重な展示!「人々を虐げ続けるな」 > Through this exhibition I was given time to feel connected. A precious exhibition!
> #049> |ロシア語 > 原文:> Долой китайский сталинизм! Долой режимы Путина и Си Цзиньпина! За настоящий социализм! > 日本語訳:> 中国式スターリン主義を打倒せよ!プーチンと習近平の体制を打倒せよ!真の社会主義のために! > Down with Chinese Stalinism! Down with the regimes of Putin and Xi Jinping! For real socialism!
> #066> |繁体中文 > 原文:> 平心敢問舊時坐……六月長街留血淚 四方猶盼見天真 2025.5.31 來自廣州 > 日本語訳:> 平らかな心で問おう、かつての座を……六月の長き街に血と涙が遺り、四方はなお真実を見んことを願う 2025.5.31 広州より > With a calm heart I dare ask of the old days... In June the long streets kept blood and tears; from all directions people still long to see the truth. — 2025.5.31, from Guangzhou.
> #068> |伝統モンゴル文字 > 原文:> 〔モンゴル文字(縦書き)── 判読困難〕 > [Traditional Mongolian script, vertical — not legibly transcribable]> ※ 文字としての翻訳はできないが、書き残されたことそのものが、本展の到達範囲の証拠
> #094> |簡体中文 > 原文:> 晚清專制時期,感謝日本接納了中國異見分子的流亡,現在的日本還有那個胸懷嗎? ——一個河南人 2026.6.7 > 日本語訳:> 清朝末期の専制の時代、日本は中国の反体制派の亡命を受け入れてくれた。感謝する。今の日本に、まだあの度量はあるだろうか? ——ある河南人 2026.6.7 > In the autocratic late-Qing era, thank you to Japan for taking in exiled Chinese dissidents. Does today's Japan still have that breadth of heart? — A Henan person, 2026.6.7.
> #127> |簡体中文 > 原文:> 做為內地長大、在香港留學的中國人,感到十分悲哀又無能為力。警惕語言的壟斷!銘記個體的經歷和苦難! > 日本語訳:> 中国本土で育ち、香港に留学した中国人として、深い悲しみと無力さを感じる。言語の独占を警戒せよ!一人ひとりの経験と苦難を心に刻め! > As a Chinese person who grew up in the mainland and studied in Hong Kong, I feel deep sorrow and powerlessness. Beware the monopoly over language! Remember the experiences and suffering of each individual!
5. 日本へ向けた問い
日本語で書かれた留言の多くは、香港・中国の状況を語りつつ、日本自身の問題にも踏み込んでいます。来場者が「他人事」として見たのではなく、「自分の問題」として見ていたことの証左です。
> #057> |日本語 > 原文:> これまでも、今またさらに 命名をめぐる戦いは、日本に暮らす私たちにとっても 極めてアクチュアルで重要な問題だ! > Both in the past and now even more so, the struggle over naming is, for us who live in Japan too, an extremely current and important issue!> ※ 本展 第1章「事件と命名」への直接の応答
> #089> |日本語 > 原文:> 本当の愛国とは何かを、この展示で教えられました 2026.6.5 > This exhibition taught me what true patriotism really is.
> #097> |日本語 > 原文:> 香港について知らなかったことを、ここで学ぶことができました。貴重な資料、展示、ありがとうございます。まさに日本もこれらと同じくなりつつあるのか… > I was able to learn here things about Hong Kong I hadn't known. Thank you for the precious materials and exhibition. Is Japan, too, becoming just like these...?
> #098> |日本語 > 原文:> 六四の記憶を命がけで守ってきた皆様に深く感謝致します。日本の戦前の枢密院や〔閣議〕、戦後の日米軍事同盟も問います。必要もあります。東アジアの民主的共同体のあり方を作りたい! > My deep gratitude to all who have protected the memory of June 4 at the risk of their lives. It also asks hard questions of Japan's prewar Privy Council and [cabinet], and of the postwar US-Japan military alliance. I want to build a form of democratic community for East Asia!
> #101> |日・英混合 > 原文:> 記憶は罪ではない。どの国や土地に住む人も、自由に権利を主張できる明日が来ますように。Peace in East Asia! > Memory is not a crime. May a tomorrow come when people living in any country or land can freely assert their rights. Peace in East Asia!> ※ 本展タイトル《記憶が罪に問われるとき》への直接の応答
6. 言葉を超えた記憶 ── 描画・引用・象徴
文字以外、もしくは他者の言葉を引用することで残された留言。香港の旗、白紙、プーさん、烏魯木齊路の街道標識 ── 国境を越えて理解される視覚記号と、文学的引用が、壁の上に現れました。
> #016> |繁体中文 > 原文:> 人類對抗權力的鬥爭 就是記憶與遺忘的鬥爭 — Milan Kundera > 日本語訳:> 権力に抗する人間の闘いとは、記憶と忘却の闘いである。— ミラン・クンデラ > The struggle of man against power is the struggle of memory against forgetting. — Milan Kundera.
> #074> |中国語 > 原文:> 〔街道標識の絵〕← 我在烏魯木齊中路很想你 Wulumuqi Rd (M) > 日本語訳:> 〔道路標識の絵〕← 私は烏魯木斉中路であなたをとても想っている Wulumuqi Rd (M) > [street-sign drawing] ← I miss you very much on Urumqi Middle Road Wulumuqi Rd (M).> ※ 2022年「白紙革命」の発端となった上海・烏魯木齊路への参照
> #078/#085> |記号 > 原文:> 〔白紙のA4の絵〕 > [drawing of a blank A4 sheet]> ※ 2022年中国本土での「白紙革命」の象徴。色違いのメモ紙に2回、別の手によって描かれていた。
> #086> |簡体中文 > 原文:> 1989年這一年,有兩個地方得到了自由,有一個地方失去了自由……春末夏之時,紫陽花盛開。民主與自由,終將會來到。2026/6/5 櫻田〇〇 > 日本語訳:> 1989年というこの年、二つの場所が自由を得て、一つの場所が自由を失った……晩春から夏にかけて、紫陽花が咲き誇る。民主と自由は、いつか必ず訪れる。2026/6/5 桜田〇〇 > In the year 1989, two places gained freedom and one place lost it... In late spring and summer, the hydrangeas bloom. Democracy and freedom will come in the end. 2026/6/5, [signed] Sakurada —.> ※ 紫陽花(あじさい)の「紫陽」が、六四当時の中国共産党総書記・> 趙紫陽> への暗号として機能している
> #105> |繁体中文 > 原文:> 「民主不僅僅是政治原則和政體型式,(它)是做人的原則,是生活方式和日常的人際關係」「仇恨只能導致暴力和專制,仇恨只能虛構敵人」— 劉曉波 > 日本語訳:> 「民主は単なる政治原則や政体の形式ではなく、人としての原則であり、生き方であり、日常の人間関係である」「憎しみは暴力と専制を招くだけ、憎しみは敵を捏造するだけ」— 劉暁波 > "Democracy is not merely a political principle or a form of government; it is a principle of being human, a way of life and of everyday human relations." "Hatred can only lead to violence and tyranny; hatred can only fabricate enemies." — Liu Xiaobo.
> #107> |簡体中文 > 原文:> 我只能選擇天空,決不跪在地上 以顯出劊子手們的高大 好阻擋自由的風 — 06.06. > 日本語訳:> 私はただ空を選ぶ。決して地に跪きはしない、刑吏たちを大きく見せ、自由の風を遮るために跪くなど。— 06.06. > I can only choose the sky; I will never kneel on the ground to make the executioners look tall and so block the wind of freedom. — 06.06.
> #125> |繁体中文 > 原文:> 我願榮光歸香港。 > 日本語訳:> 願わくは栄光を香港に。 > May glory be to Hong Kong.> ※ 2019年香港の抗議運動で歌われた「願榮光歸香港」のタイトルを書き残したもの。歌うことは禁じられても、書くことはできた
3つの偶然の照応
128通の留言のなかには、私たち主催者が事前に意図したわけではないのに、本展のキュレーション論題そのものに正確に応答した、3通があります。
クンデラの一文(#016)
本展の中心装置「語彙のパネル」の隣の壁に、ある来場者がチェコの作家ミラン・クンデラの一文を書き残しました。
「人類對抗權力的鬥爭 就是記憶與遺忘的鬥爭」 (権力に抗する人間の闘いとは、記憶と忘却の闘いである)
これは本展の論題そのものです。誰かが私たちの意図を正確に読み取り、その思想的祖先を壁の上に書き残してくれた瞬間でした。
劉暁波の言葉(#105)
第2章で展示した曾我篤氏の劉暁波《08憲章》カリグラフィー作品のすぐ近くで、別の来場者が劉暁波の別の文章を書き写しました。
「民主は単なる政治原則や政体の形式ではなく、人としての原則であり、生き方であり、日常の人間関係である」
展示する側と、それを受け取って書き写す側のあいだで、劉暁波の言葉が二重に重なって会場に存在しました。
紫陽花の暗号(#086)
「1989年というこの年、二つの場所が自由を得て、一つの場所が自由を失った……晩春から夏にかけて、紫陽花が咲き誇る。民主と自由は、いつか必ず訪れる。」
日本語のなかで「紫陽花(あじさい)」と書いて、文字の上で「紫陽」を1989年当時の中国共産党総書記・趙紫陽への暗号として用いたものです。趙紫陽は、戒厳令施行と学生への武力行使に反対し、その立場ゆえに失脚し、その後の人生を軟禁下で過ごしました。
日本語の植物名を借りて、検閲しえない形で六四の記憶を伝えようとする ── 言語と地理の越境が、この一通に凝縮されています。
全カタログ(128通すべて)
本ページに掲載した留言はテーマ別の抜粋です。全128通の書き起こしテキストは、以下より公開しています。
原文(書かれた言語)と繁体中文/日本語/英語の3言語訳、メモの色、壁上の位置情報を収録。個人を特定できる情報は除外しています。研究・教育・報道目的でのご利用を歓迎します。
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128通の手書き原本写真は本ページでは公開しておりません。ジャーナリスト・研究者・教育機関からのご請求に応じて、個別にご提供いたします。 ご請求は admin@ladylibertyhongkong.com、またはお問い合わせフォームよりお願いいたします。
引用される際は《記憶が罪に問われるとき》東京・2026年5月27日–6月7日 ── Lady Liberty Hong Kong(一般社団法人 日本香港民主連盟)所蔵 とご明記ください。