中国語普及とソフトパワー:国家戦略としての言語教育
中国政府は、世界的な中国語(普通話)の広がりをどのように位置づけているのでしょうか?
未来の中国語教師は、どのように「ソフトパワー」の担い手として育成されているのでしょうか?
そして、長期的なフィールドワークによって、公式の語りの背後にある何が見えてくるのでしょうか?
本トークでは、2014年〜2019年の中国での現地調査に基づく2021年の研究プロジェクトをもとに、中国が展開するTCSOL(外国語話者への中国語教育)プログラムを中心に、言語教育がどのように地政学的影響力の手段として機能しているのかを探ります。
公式の言説や教育制度を丁寧に読み解きつつ、実際の教育現場での観察や長年の研究に基づいた解釈を交えながら、「言語」「イデオロギー」「ソフトパワー」が中国の国際戦略の中でどのように作用しているのかを再考する機会を提供します。
開催日:2025年6月28日(土)
時間:15:00〜16:30
会場:東京都新宿区早稲田町81 大塚ビル 3F
使用言語:英語(日本語通訳あり)
事前登録は不要です。直接会場にお越しください。
パオラ・カロッロ(Paola Carollo)
博士課程在籍/人類学専攻(ラヴァル大学)
GRITH(TransHuma)所属メンバー
指導教員: イザベル・アンリオン=ドゥルシー(Isabelle Henrion-Dourcy)教授
論文仮題: 中国の超大国的地政学戦略「一帯一路」構想の文脈における、中央アジア出身学生による中国語学習プロセスの人類学的分析
研究キーワード: 中国語教育、言語と文化、一帯一路構想、中央アジア、少数民族、ソフトパワー
パオラ・カロッロ氏の博士研究は、中国政府による言語と文化の対外発信政策、とりわけ「一帯一路」構想における中国語教育の展開と、その社会的・政治的インパクトに焦点を当てている。2004年以降、中国は自国の言語・文化の国際的影響力を高めるために、欧州諸国の国語普及政策を参考に「孔子学院」を設立し、積極的な文化外交を展開してきた。
こうした動きは「中国語ブーム(汉语热潮)」として学界でも注目されており、中国語教師の養成課程(TCSOL:Teaching Chinese to Speakers of Other Languages)においては、言語教育のみならず、政治的・文化的価値観の伝達が重視されている。カロッロ氏自身も2017年から2019年にかけて遼寧師範大学でTCSOL課程を修了し、その教育方針を実地で体験している。
現在の博士研究では、中央アジアからの留学生たちがどのように中国語を学び、どのような文化的・政治的メッセージを受容・内面化しているのかを、フィールドワークを通じて明らかにしようとしている。教育制度が目指す人材像や、国家的イデオロギーの再生産に関する考察は、中国のソフトパワー戦略の実態に迫るものである。
主な業績:
Carollo, Paola(2019)「意大利汉语教学发展研究」(イタリアにおける中国語教育の発展に関する研究)修士論文(中国語教育専攻)、遼寧師範大学(中国・大連)。※2022年6月より中国知網にて公開。
Carollo, Paola(2016)『Dieci anni con lo zaino in spalla』:中国人作家・小鵬による旅行記『十年行走』の抜粋翻訳と文化分析。学士論文(異文化コミュニケーション専攻)、ミラノ・ビコッカ大学(イタリア・ミラノ)。