記憶は罪ではありません ── 鄒幸彤・李卓人・何俊仁の3氏への判決を受けて
令和8年8月21日|即時発表
2026年8月21日午前、香港高等法院原訟法庭(HCCC 155/2022 / 事件番号 [2026] HKCFI 4794)は、国家安全維持法指定裁判官 李運騰、陳仲衡、黎婉姫の3判事 による合議体で、香港市民支援愛国民主運動連合会(支聯會)とその元幹部3氏に対し、「国家政権転覆扇動罪」(国安法第22条・第23条)で 有罪判決 を言い渡しました。
李卓人(D2)(支聯會 元主席):無罪を主張し、審理を経て罪名成立
何俊仁(D3)(支聯會 元主席):裁判に先立ち 認罪、本日の判決で有罪確定
鄒幸彤(D4)(支聯會 元副主席):無罪を主張し、審理を経て罪名成立
支聯會(D1、法人被告):3氏を「主導意志」とみなす「帰責原則」により罪名成立
3氏の 量刑(刑期)は後日、改めて期日を設定して言い渡される 予定です。3氏は2021年9月の逮捕以来、すでに約 1,700日 にわたって拘留されています。
1.この判決が示した司法判断について
本日公開された 206ページ の裁決理由書で、法廷は 中国憲法が香港の憲政秩序の一部を構成する と認定しました。社会主義制度は中国の根本制度であり、中国共産党の指導はその主要な構成要素である ため、中共の指導を「打倒・破壊」することは、国安法第22条にいう「根本制度」を打倒・破壊することに当たる、という判断です。
一方、控訴側が示した「基礎一」、すなわち 「中共の指導的地位は憲法上、いかなる形でも合法的に修正できない」 との論拠は採用されませんでした。中国全人代には憲法改正権があるためです(第141段落)。
法廷が採用したのは「基礎二」、つまり 中共の指導は根本制度の主要構成部分であり、それを「打倒・破壊」する意図での言動は国安法違反となる という論理でした。
そのうえで、支聯會の五大綱領の一つである「一党専政を終わらせる(結束一黨專政)」について、被告らは憲法の枠内での改革を求めたにすぎず、「打倒・破壊」の意図はなかったと主張しました。しかし法廷は、「結束(終わらせる)」には「打倒・破壊」の含意がある と認定し、国安法施行後もこの主張が続けられていたことを罪名成立の根拠としました。
つまり、「一党専政を終わらせる」という政治的主張が、その意図によっては「国家政権転覆の扇動」に当たりうるとの司法判断が、香港の法廷によって示された ことになります。
この言葉は、支聯會が1990年以降、30年にわたり掲げ続けてきた「五大綱領」の第4項でした。
法廷は本件を「政治審判ではない」とし、六四天安門事件や中国の政治制度そのものについて判断するものではないとしています。しかし、被告らの「意図」を認定するため、支聯會の30年間の活動や六四事件をめぐる発言が広く証拠として採用されました。
判決前日の8月20日、鄒幸彤さんは獄中から次の言葉を発信していました。
「公道は人々の心のなかにある。この、上から下ろされてくる判決を仰ぎ見る必要はない。一つの判決など、大したことではない。」
2.押送中の身体拘束について
同じ Patreon 投稿で、鄒さんは、審理開始以降、大欖女子監獄から西九龍法廷まで、手錠・足枷・腰鎖・脚鎖の4点セットで関節を固定された状態で護送されていると明らかにしています。
鄒さんは次のように書いています。
「巧妙な『拷問』と成熟した専制主義は、実は同じ原理で動いている ── 外から見て目立つような、暴力的な行為は見せない。代わりに、人と人のあいだの内部矛盾を利用し、生産し、互いに監視・密告し合う関係をつくる。社会への傷は深く、長く続く。」
3.記憶は罪ではありません。
「悼念」「平反」「絶食」「燭光」。香港の市民社会が30年余にわたり使ってきた言葉や活動が、いま香港の法廷で「扇動」を判断する材料として再解釈されています。
さらに本日の判決は、「一党専政を終わらせる」という政治的主張が、香港の司法において「国家政権転覆の扇動」と認定されうる ことを明示しました。
中国憲法を香港の憲政秩序の一部と位置づけ、中国共産党の指導的地位を「根本制度」の主要構成部分として捉える。この法的論理が及ぼす影響は、六四追悼だけにとどまりません。香港において、どのような政治的主張が合法的な言論として許されるのか、その範囲そのものに関わる判断です。
私たちは、香港であれ、中国であれ、世界のどこであれ、市民には自らを統治する者を選び、そして平和的な政治過程を通じて権力の座から退かせる権利があると考えます。権力を持つ者を市民が交代させることのできない政治制度において、政治的選択の自由は根本的に制限されています。「一党専政を終わらせる」という主張そのものを犯罪として扱うことは、まさにこの基本的な権利を否定するものです。
私たちは2026年5月から6月にかけ、東京で 《香港・六四・国家安全 ── 記憶が罪に問われるとき》 を開催しました。そこで問いかけたのは、過去を記憶し、追悼し、政治的変化を求める行為が、国家安全という名のもとでどのように再解釈されているのかという問題でした。
本日の判決によって、その問いは現実のものとなりました。
しかし、鄒幸彤さんが獄中から書き続けているように、記憶は牢に閉じ込められません。
鄒幸彤さん、李卓人さん、何俊仁さんが差し出してきた、そして今も差し出し続けている時間と自由は、記憶を権力によって完全に消し去ることはできないということを、私たちに伝え続けています。
最後に、一つお願いがあります。
この声明を、そして鄒幸彤さん自身の6月4日声明を、お知り合いの方に共有してください。
記憶を伝え、人から人へと共有することまで、当局が止めることはできません。
Lady Liberty Hong Kong︱レイディー・リバティー香港
Tokyo, Japan︱日本東京都