法廷で問われるもの──支聯会裁判と香港の公共空間の行方

30年にわたり香港の六四キャンドル追悼集会で掲げられてきたスローガン「一党独裁の終結」は、近年、香港国家安全法廷が支聯会および複数の正副主席を国家政権転覆扇動罪で起訴する根拠の一つとされた。写真は2018年5月27日、香港で行われた六四デモの際の標語。

写真:The Associated Press/Vincent Yu

【連載にあたって】

現在、香港では「香港市民支援愛国民主運動聯合会」(支聯会)とその元幹部・李卓人、何俊仁、鄒幸彤に対する国家安全法関連の裁判が進行中である。開審は2026年1月22日、結案陳詞は5月18日から予定されており、判決は香港における言論、集会、追悼、政治参加の境界線を左右する重要な指標となる見込みである。

本連載は全5回にわたり、1989年の支聯会設立から現在の法廷闘争までをたどり、何が争われているのか、そしてこの裁判が香港社会にとってどのような意味を持つのかを整理するものである。六四の記憶をどう語るのか──その問いは、被告三人だけでなく、同じ出来事を悼んできたすべての香港人にかかわっている。

連載目次

第一回 1989年 支聯会発足、香港で広がる民主化支援

第二回 1990年以後 六四の記憶をつないだ支聯会

第三回 国安法施行後 狭まる社会空間、法廷へ移る争点

第四回 李卓人、何俊仁、鄒幸彤 支聯会を担った三人

第五回 支聯会事件裁判 法廷での争点

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五 支聯会事件裁判 法廷での争点

現在行われている支聯会事件裁判では、すでに解散した支聯会と、その前主席・前副主席である李卓人、何俊仁、鄒幸彤らが、「煽動他人顛覆国家政権」罪に問われている。審理は2026年1月22日に始まり、開審初日に何俊仁は罪を認め、支聯会、李卓人、鄒幸彤は無罪を主張した〔1〕。なお、この開廷を前夜から徹夜で傍聴整理券を待つ市民も現れ、各国領事代表や前支聯会常委らも開廷を見守った〔2〕。裁判は国安法指定の法官李運騰、陳仲衡、黎婉姫の3名による合議体で行われ、陪審員は置かれない〔3〕。3月13日に裁判所は表証成立と判断し、審理は弁護側の立証段階へ進んだ〔4〕。起訴される犯罪期間は2020年7月1日(国安法施行日)から2021年9月8日(常委逮捕日)とされており、有罪の場合の最高刑は懲役10年である〔5〕。

この裁判でまず問われているのは、支聯会が長年掲げてきた「一党独裁の終結」という綱領を、法的にどのように位置づけるのかという点である。検察側の起訴状は、被告らが「民主や六四事件の名のもとに、国家に対する否定的な内容を配し、支聯会の組織と主張を鼓吹・宣伝した」と主張し、五大綱領のうち「結束一党専政」は必然的に違憲の非合法手段による顛覆を含むと構成している〔6〕。この論理の核心は、「中国共産党の指導を合法的に終わらせる手段は存在しない」という前提にあり、したがってその主張を唱えること自体が非合法手段の煽動に当たるというものである。開審初日に読み上げられた何俊仁の認罪内容でも、支聯会が国安法施行の前後を通じて「一党独裁の終結」を継続的に主張し、六四記念館の運営や関連活動を通じてそれを広めようとしたことが罪証の中心に置かれていた〔7〕。

これに対して李卓人と鄒幸彤の側は、「一党独裁の終結」を直ちに「中国共産党の指導の終結」と同一視することに強く反論した。李卓人の代理人大律師・沈士文は中段陳詞で、憲法第62条・64条の条文は修憲を禁じていない以上、修憲という合法的手段によって政制の変革を訴えることは可能であり、その手段が存在する限り検察側の起訴根拠は崩れると主張した〔8〕。また「もし修憲が合法的手段であると法廷が認定するなら、検察側の起訴根拠は失敗する」と端的に述べ、合法的手段の不在を無前提に仮定することは挙証責任を被告に転嫁する論法だと批判した〔9〕。鄒幸彤自身も、「一党独裁の終結」は「結果や状態」であり、それ自体は法律違反にはなりえない、人の行為のみが法律に違反しうると主張した〔10〕。

第二の争点は、中国憲法を香港の法廷がどこまで参照し、どこまで自ら解釈できるのかという問題である。鄒幸彤は中段陳詞で、中国憲法は香港で直接適用されるものではなく、香港の法廷にはその内容を独自に確定する権限がないと主張した。李卓人側も、中国憲法の序言や第1条が修憲禁止を定めているという検察側の立論は「文言を超えた解釈」であり、もし文言以外の解釈を主張するならば専門家証人を立てて立証すべきであると反論した〔11〕。3月13日の表証判断では、裁判所は検察側が示した二つの検察理論のうち、「合法的に中国共産党の指導を終わらせる方法は存在しない」という第一の理論については、分析や立証が不十分として採用しなかった一方、「支聯会は修憲運動を提唱していたのではなく、違法な手段による実現を煽動していた」という第二の理論については、一応の証拠があるとして表証成立を認めた〔12〕。

第三に問われているのは、どこまで具体的な行為や効果が示されれば「煽動」が成立するのかという点である。審理の途中では、検察側が国安法施行後の発言を「共謀者原則(Co-Conspirators Rule)」によって各被告に広く結びつけようとしたが、裁判所はその一部について、発言者本人に対してのみ用いることができると制限を加えた〔13〕。また、弁護側は六四現場を自ら取材した元記者・蔡淑芳を証人として召喚し、1989年当時の北京の状況を示そうとしたが、裁判所は蔡が持参した天安門の写真について「本件と無関係」として法廷での展示を認めなかった〔14〕。「結束一党専政」の意味をめぐっては、法官陳仲衡が鄒幸彤への尋問の中で「共産党の指導地位を変えることも含むか」と繰り返し問い、鄒は「政治改革は特定の誰かの指導を対象とするものではなく、体制に民主主義を実現するものだ」と答えたが、法官らはこの答えに疑問を呈した〔15〕。

また、弁護側証拠をめぐっては、鄒幸彤が台湾の研究者を専門家証人として申請したが裁判所に却下されるという場面もあった〔16〕。さらに、李卓人側の大律師が2019年の六四集会の記録映像を証拠として提出しようとした際、法官から「2018年の修憲以前に行われた活動は、修憲後の国安法のもとでは別に評価される」という方向性が示されたことも注目を集めた〔17〕。

ここまでの審理を振り返ると、この裁判で争われているのは、単に個々の発言が違法かどうかという問題だけではない。支聯会が長年掲げてきた綱領を、政治的主張として理解するのか、それとも国家体制の否定を煽る言説として理解するのか。六四の記憶を、追悼と歴史認識の問題として扱うのか、それとも国家安全に関わる問題として扱うのか。さらにいえば、香港社会で長年共有されてきた政治的言葉が、今なお公共空間の中にとどまりうるのかどうかが、法廷の場であらためて問われている。

今後の注目点も、まさにそこにある。判決が「一党独裁の終結」という言葉そのものを違法視するのか、それとも具体的な手段や文脈との結びつきをなお求めるのか。香港の法廷が中国憲法の位置づけをどこまで認め、修憲や民主化をめぐる議論にどこまで合法性の余地を残すのか。さらに、煽動の対象や効果の範囲をどこまで広く解するのか。これらの点は、支聯会事件にとどまらず、今後の香港における言論、集会、追悼、政治参加の境界線を左右する可能性がある。

この裁判の政治的・社会的意義は、まさにそこにある。これは、解散した一つの団体の過去の活動を裁く事件であるだけではない。六四の記憶をどう語るのか、香港社会が長く用いてきた政治的スローガンをどこまで維持できるのか、そして国家と社会の関係をめぐる言葉が、なお公共空間の中に存在しうるのかをめぐる裁判でもある。開審当日には多国の領事代表や多数の市民が傍聴に訪れ、元支聯会のメンバーらも、この事件は被告三人だけでなく、同じ出来事を悼んできた香港人にも関わるものだと語った。だからこそ、この裁判は判決が出るまで追い続ける価値があり、その結論は、被告の運命だけでなく、香港の公共空間の今後を考えるうえでも一つの重要な指標になる。


引用文献

〔1〕「香港支聯會鄒幸彤、李卓人、何俊仁受審」、The News Lens(關鍵評論網)、2026年1月23日。

〔2〕「支聯會被指煽動顛覆案《法庭線》報道一覧」、法庭線 The Witness、2026年2月2日更新。

〔3〕同上。

〔4〕「支聯會案|全部被告表證成立 李卓人料下周二出庭自辯」、香港01、2026年3月13日。

〔5〕「香港支聯會鄒幸彤、李卓人、何俊仁受審」、前掲。

〔6〕「支聯會顛覆案|鄒幸彤申撤控指當中未列出任何非法手段」、星島頭條、2025年11月3日。

〔7〕「支聯會被指煽動顛覆案《法庭線》報道一覧」(What 何俊仁認罪案情)、前掲。

〔8〕「支聯會案Day9 李卓人一方中段陳詞:修憲能合法結束一黨專政」、法庭線 The Witness、2026年3月9日。

〔9〕同上。

〔10〕「支聯會被指煽顛案 鄒幸彤申請撤銷公訴書失敗」、法庭線 The Witness、2025年11月3日。

〔11〕「支聯會案Day9 李卓人一方中段陳詞」、前掲。

〔12〕「支聯會案|全部被告表證成立」、前掲。

〔13〕「支聯會案Day9 控方擬引9段國安法後片段指證各被告 官指其中2段僅可用於發言者」、法庭線 The Witness、2026年3月9日。

〔14〕「支聯會案Day21 鄒傳採訪六四記者作供 官拒庭上展示六四現場照」、法庭線 The Witness、2026年3月30日。

〔15〕同上。

〔16〕「支聯會案|鄒幸彤申台教授作專家證人被拒」、香港01。

〔17〕「支聯會案Day8 辯方盤問提八九民運及政府鎮壓」、法庭線 The Witness、2026年2月4日。

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