再び街頭へ――元メンバーが向き合った2019年
2019年6月17日、黄之鋒は、雨傘運動時の道路占拠の撤去をめぐる法廷侮辱罪での服役を終えた。その時、香港ではすでに逃亡犯条例改正案に反対する大規模なデモが起きていた。その前週、周庭は日本で報道機関や大学、国会議員に香港の状況を伝えていた。二人は異なる場所から今回の抗議に関わった。学民思潮の活動停止から3年後、その元メンバーが参加したのは、特定の組織が全体を率いる形を取らない運動だった。[1][2]
逃亡犯条例が呼び起こした不安
逃亡犯条例改正案は、従来の協定がない地域にも容疑者などを引き渡せるようにするものだった。香港と中国大陸では司法制度が異なる。大陸への引き渡しが可能になれば、香港で保障されてきた権利が十分に守られないのではないかという不安が、反対を広げた。一国二制度の下で維持されてきた制度の違いが、自分たちの生活にどのような意味を持つのかが問われた。[3]
運動では、インターネット上で提案が共有され、各地で多様な行動が生まれた。香港中文大学の『大学線』が取材した若者のグループでは、通信アプリTelegramで集合場所や時間を話し合い、投票で決めていた。現場では別のグループや救護担当と連絡を取り、人手を調整したという。全体を指揮する中心をもたない「無大台」の運動にも、こうした小集団での意思決定や、集団同士の協力があった。[4]
国外に伝え、街頭に加わる
2019年6月、周庭は東京で報道機関の取材を受け、大学で話し、国会議員と面会した。6月18日に公開した「東京後記」では、滞在中の12日に香港で警察と抗議者が衝突したことを知り、帰りたいと感じたと記している。国外で香港の状況を伝えながら、現地で抗議に加わる人々のことが気にかかっていた。
6月21日には、周庭も香港の警察本部前での抗議に加わった。出獄して間もない黄之鋒や、林朗彦も参加していた。後の裁判報道では、拡声器による呼びかけや、黄之鋒がTelegramで警察本部の包囲に言及したやり取りが、検察側の説明として記されている。[5]
ただし、以前の運動で知られた人物が参加しても、抗議全体の方針を決められるわけではなかった。黄之鋒は2020年のインタビューで、出獄後、新しい運動の状況に適応する難しさを語っている。警察本部前では通信状態が悪く、集会を続けるかどうかのオンライン投票に参加できない人もいたという。「無大台」の運動では、団体の指示に従う形とは異なる方法で、現場の判断を共有する必要があった。[6]
8月30日には黄之鋒と周庭が逮捕され、林朗彦もこの警察本部前の抗議に関して逮捕された。国外への発信や香港の街頭で活動を続けていた元メンバーは、参加した抗議をめぐって刑事手続きに向き合うことになった。[7]
地域と国外に働きかける
抗議側は、条例改正案の撤回、警察の対応を調べる独立調査、抗議を暴動とする認定の撤回、逮捕者の訴追取り下げ、普通選挙の実現という「五大要求」を掲げた。香港政府は9月4日、改正案を正式に撤回する方針を発表した。しかし、警察の行動を誰が検証するか、民意を反映する政府をどう選ぶかへと、争点は広がっていた。政府は既存の警察監督機関による検証を支持したが、独立調査などを求める抗議は続いた。[8]
黄之鋒は、取材への対応や対外連絡の方が、自分には力を発揮できると考えた。9月17日には米国の議会・行政府中国委員会で証言した。改正案一つの撤回では運動は終わらず、政府が民意を代表していないことが根本の問題だと述べ、「香港人権・民主主義法案」を支持した。香港が享受する経済上の特別な扱いを、自治や自由の維持と結びつけるよう求めたのである。香港警察への装備供給を制限する法案にも賛成し、米国の政策を通じて香港政府や中国に圧力をかけようとした。同年11月27日、香港人権・民主主義法は署名され、成立した。 [9][10]
一方、黄之鋒は9月末、海怡西で区議会選挙への立候補を表明した。区議会は交通や生活環境など地域の課題を扱い、当時は議席の大部分を住民の投票で選んでいた。本人は、居住する地区で3年間活動してきたと説明し、国際的な連携に加え、地域から民主主義を実践したいと述べた。しかし10月には立候補資格を認められなかった。黄之鋒が支持した林浩波は11月の選挙で当選し、二人は翌朝、駅前で有権者に礼を述べた。自ら議席を得る試みは、別の候補者を支える仕事へ移った。[11][12][13]
国安法が施行された日
2020年に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大と集会への制限が重なり、大勢が街頭に集まることは難しくなった。条例改正案は撤回されたものの、独立調査や普通選挙など、残る要求は実現していなかった。しかし、運動が終結したわけではない。5月には、国家安全に関する立法の動きに反対する人々が再び街頭に出た。[14][15]
その一方で、中央政府は香港の国家安全に関する法制度の整備を進めた。5月28日、全国人民代表大会は、国レベルで立法を行うための決定を採択した。香港政府も、香港側で早期に立法することは難しいとして支持した。個々の抗議行動を既存の法律で取り締まるだけでなく、政治活動に適用される新たな法制度を中央が導入する段階に入った。[16]
6月30日、全国人民代表大会常務委員会は香港国家安全維持法(以下、香港国安法)を可決し、法律は同日夜に施行された。国家分裂、国家政権転覆、テロ活動、外国・域外勢力との結託による国家安全への危害を処罰する法律である。国際的な働きかけを続けてきた活動家にとって、その後の活動を判断する大きな問題になった。[17]
施行前の同日、黄之鋒は長期の収監や自身の安全への懸念を表明し、香港衆志の秘書長を辞任して離脱した。周庭や羅冠聰らも離脱を表明し、団体は運営の継続が難しいとして解散を発表した。学生の参加資格や選挙への対応を議論した2016年とは異なり、今回は国安法への懸念の下で中心人物が相次いで離れ、組織として続ける体制が失われた。[18][19]
離脱に際し、黄之鋒は個人として活動を続ける意思を示した。一方、周庭は、今後の国際的な連携には参加できないと表明した。前年には国外に香港の状況を伝えていた二人が、異なる判断を示したのである。[20]
学民思潮の活動停止後、元メンバーは選挙や地域活動、国外への発信へと活動の場を広げてきた。しかし、香港衆志の解散に至っては、どの方法で要求を実現するかに加え、活動を続けることでどのような危険を負うのかが、いっそう切実な問題となった。同じ組織で活動してきた人々も、その先の歩みを共にするとは限らなかった。
引用文献
[1] 「黃之鋒出獄向國際發聲:感謝台灣力挺反送中」中央社、2019年6月17日。
https://www.cna.com.tw/news/firstnews/201906170267.aspx
[2] 周庭「東京後記:日本人關注香港自由的十件事」獨立媒體、2019年6月18日。
https://www.inmediahk.net/國際/東京後記:日本人關注香港自由的十件事
[3] “Hong Kong’s Carrie Lam announces formal withdrawal of controversial extradition bill,” ABC News, 2019年9月4日。
https://www.abc.net.au/news/2019-09-04/carrie-lam-announces-withdrawal-of-hong-kong-extradition-bill/11478968
[4] 「無名無臉無大台 他們在Telegram連結」香港中文大学『大學線』、2019年10月29日。
https://ubeat.com.cuhk.edu.hk/143-telegram/
[5] 楊智強「黃之鋒、周庭、林朗彥『621包圍警總』遭判刑7至13.5個月,支持者:當局目的是殺雞儆猴」報導者、2020年12月。
https://www.twreporter.org/a/hong-kong-joshua-wong-chow-ting-ivan-lam-jailed
[6] 盧斯達「黃之鋒:燒光環的人」光傳媒、2021年3月9日(2020年の取材を転載)。
https://ipkmedia.com/21915/
[7] 周庭「突然の逮捕から保釈、そしてドイツ・オーストリアへの旅」PLANETS、2019年9月26日。
https://note.com/wakusei2nd/n/n2ff746c58b66
[8] 「行政長官宣布撤回修訂《逃犯條例》草案為幫助社會前行的四項行動之一」香港政府、2019年9月4日。
https://www.info.gov.hk/gia/general/201909/04/P2019090400706.htm
[9] Joshua Wong, “Joshua Wong’s Testimony,” Congressional-Executive Commission on China, 2019年9月17日。
https://www.cecc.gov/sites/evo-subsites/cecc.house.gov/files/documents/Joshua%20Wong%20C.E.C.C.%20Testimony%20-%20Sept.%2017%202019.pdf
[10] “Statement by the President,” The White House, 2019年11月27日。
https://trumpwhitehouse.archives.gov/briefings-statements/statement-by-the-president-30/
[11] 「黃之鋒區選出戰海怡西『民主實踐由社區開始』」獨立媒體、2019年9月28日。
https://www.inmediahk.net/社區/黃之鋒區選出戰海怡西-「民主實踐由社區開始」
[12] 「黃之鋒參選香港區議員受阻 資格確定遭取消」中央社、2019年10月29日。
https://www.cna.com.tw/news/firstnews/201910295005.aspx
[13] 黎靜珊「【區議會選舉・海怡西】黃之鋒PlanB林浩波謝票 黃:須做好社區」香港01、2019年11月25日。
https://www.hk01.com/18區新聞/402142/區議會選舉-海怡西-黃之鋒planb林浩波謝票-黃-須做好社區
[14] “Beijing Says Imposing a National Security Law in Hong Kong Is Necessary. Democracy Activists Call It ‘the Saddest Day’ in City History,” TIME, 2020年5月22日。
https://time.com/5841311/hong-kong-protests-national-security-law/
[15] Rebecca Falconer, “Hong Kong police fire tear gas during mass China security law protest,” Axios, 2020年5月24日。
https://www.axios.com/2020/05/24/hong-kong-protest-china-national-security-law
[16] “CE welcomes passage of Decision on establishing and improving legal system and enforcement mechanisms for HKSAR to safeguard national security by NPC,” 香港政府、2020年5月28日。
https://www.info.gov.hk/gia/general/202005/28/P2020052800524.htm
[17] “Hong Kong Police strictly enforce National Security Law,” 香港政府、2020年6月30日。
https://www.info.gov.hk/gia/general/202006/30/P2020063001004.htm
[18] 「國安惡法壓境 誰也沒有辦法確定明天….. 黃之鋒退出香港眾志」Newtalk新聞、2020年6月30日。
https://newtalk.tw/news/view/2020-06-30/428400
[19] 「黃之鋒等核心成員陸續退出 香港眾志宣布解散」中央社、2020年6月30日。
https://www.cna.com.tw/news/firstnews/202006305008.aspx
[20] 「黃之鋒、羅冠聰、周庭及敖卓軒宣布退出香港眾志」Now新聞、2020年6月30日。
https://news.now.com/home/local/player?newsId=396203
