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香港を知る

それぞれの日々、その後の香港――収監と離港、狭まる政治参加の自由

請求記号
EX-2026-15
日付
2026年11月1日
分量
3,991字

2020年12月2日、黄之鋒、周庭、林朗彦に、前年6月21日の警察本部前での抗議をめぐって実刑判決が言い渡された。刑期はそれぞれ13カ月半、10カ月、7カ月だった。学民思潮の活動停止後、別の場で政治に関わってきた三人は、同じ事件で収監された。香港衆志もすでに解散していたが、過去の活動をめぐる裁判は続き、その後の生活にも関わっていった。[1]

選挙に託したもの、その後の裁判

 黄之鋒は、香港衆志を離れた後も選挙への参加を試みていた。2020年7月、民主派が立法会選挙に向けて独自に行った初選に出馬し、九龍東で最多の票を得た。この投票は、候補者を調整して票の分散を抑え、当時70議席だった立法会の過半数獲得を目指すものだった。[2]

 黄之鋒は初選後の文章で、地域で選挙活動を支えた仲間に謝意を示し、結果を、議会でも抗争を続けることへの支持と受け止めた。他の候補者への支援や国際的な働きかけも続けると述べた。しかし、立法会選挙への立候補資格は認められなかった。前年の区議会選挙に続き、初選で支持を集めても、本選へ進む道は閉ざされた。[3][4]

 その初選への参加は、後に刑事裁判の対象となった。裁判所は、議会で過半数を得た後、予算の内容を問わず否決を続け、行政長官に議会解散や辞任を迫る計画への合意を、国家政権転覆の共謀と判断した。2024年11月、黄之鋒に禁錮4年8カ月が言い渡された。選挙を通じて政府への圧力を強めようとした行動が、香港国安法の下で処罰されたのである。[5]

香港を離れ、暮らしを組み直す

 周庭が服役したのは、香港国安法による事件ではなく、警察本部前の無許可集会に関する事件だった。ただし、2020年8月には国安法に関わる別の容疑でも逮捕されていた。2021年6月12日に出所しても、別件の捜査は残った。 [6]

 2023年12月、周庭はカナダへの留学と、香港へ戻らない意向を公表した。本人によれば、旅券を返してもらう条件として深圳への訪問を求められ、香港警察の国家安全担当職員とともに、中国の発展を紹介する展示や企業を訪ねたという。当初は帰港する航空券も購入していたが、自身の安全と心身の状態を考えて、戻らないと決めた。香港警察は保釈中の出頭に応じないことを非難し、2024年2月には指名手配していると明らかにした。[7][8]

 周庭はかつて学民思潮の広報を担い、堪能な日本語で香港の民主化運動について日本でも伝えてきた。カナダでは、住まいを探し、大学に通う日々を重ねた。2025年にはトロントのOCAD大学で修士課程を修了し、自身の動画で卒業式や大学生活を紹介した。香港の政治情勢に加え、自分自身の経験や、カナダでの暮らしも発信の主題となった。[9]

獄中で迎えた30歳

 黄之鋒には、さらに別の国安法事件の裁判が続いた。2026年9月2日、外国・域外勢力との結託を共謀したとする罪を高等法院で認め、量刑は後日に持ち越された。控罪が対象としたのは2020年7月から11月までで、羅冠聰らと外国に制裁などを求めたとされた。[10]

 検察側は、国安法実行前の国際的な働きかけを説明した上で、実行後も外国メディアや交流サイトを通じて活動を支援し、羅冠聰の投稿を共有したことなどを挙げた。弁護側は、この事件を除けば刑期は2027年1月までだったと述べたが、新たな量刑が示されていない以上、釈放の時期は確定していなかった。[11]

 2026年10月13日、黄之鋒は獄中で30歳を迎えた。拘束中に迎える誕生日は6度目だった。その前週には欧州議会が黄之鋒らの釈放を求める勧告を採択していたが、香港政府はこれに強く反発した。かつて香港の民主化に目を向けるよう国際社会に訴えた黄之鋒は、今、自らの自由と人権を守るために、国際社会の関心と支援を必要とする立場に置かれていた。[12]

次の学生たちが組織をつくるには

 学生運動の元メンバーが裁判や離港に向き合う間、後に続く学生の活動にも制約が及んだ。教育局は2020年、小中高校に対し、授業のボイコットや校内での人間の鎖、政治的な標語や歌による意思表示を制止する方針を示した。学民思潮の時代に生徒が使った集団的な意思表示の方法が、学校から指導や制止をうける対象となった。[13]

 大学では、政治的な発言だけでなく、学生団体を運営する基盤も問題となった。香港中文大学は2021年、学生会の当選執行部の言論に国家安全上の懸念などを示し、会費の代理徴収や施設提供などの支援を停止した。[14] 学民思潮は大学学生会とは異なる校外の組織だったが、学生が仲間を集め、方針を決め、次の担い手へ仕事を引き継ぐには、いずれも活動を支える仕組みが必要だった。

 学生側には、自治の仕組みを立て直す試みもあった。中文大学では、学生は学部とは別に、寮生活や課外活動などを支える「書院」に所属し、書院ごとにも学生会が置かれていた。全校の学生会が活動を停止した後、各書院の学生会などが、その再建に取り組んだ。『中大学生報』の2024年の取材では、学生たちは組織の規約を改め、大学とは別の団体として登録する準備を進めていた。しかし、担い手が減り、再建を支える書院の学生会も活動を停止するなか、作業は難航していた。 [15]

 2025年末から2026年初めには、さらに複数の書院学生会が活動を停止した。崇基書院の学生会は、独立した団体としての登録を終えるまで学生会の名称を使えず、活動室の利用や学生への一斉メール配信も制限されたと説明した。大学側は、法に従って登録した学生組織のみが活動できるとの立場だった。[16] 逸夫書院では、学生会に代わって書院側がサークルなどの年度ごとの登録を扱うことになった。[17] 学生が活動を続けるための場所や連絡手段、団体を運営する仕事が、学生自身の手から離れつつあった。

 2026年2月には、雨傘運動で学民思潮と協力した学聯も、解散手続きの開始を発表した。解散声明は、成員らが近年、厳しさを増す圧力に直面してきたと説明した。[18] 同年8月には、中文大学が学生会の再建に向けて章程の枠組みを検討しているとも報じられた。[19] ただ、組織を再建することと、学生が自ら独自の活動の方針を決め、自主的に活動できることは同じではない。問われているのは、学生会という名称が残るかどうかだけでなく、そこで学生が何をできるのかである。

かつて学民思潮がつくったのは、生徒が学校の枠を越えて結びつき、教育政策や政治制度について自らの意見を表明する場だった。その声は保護者や教員、市民にも届き、国民教育の導入計画を後退させる力の一部となった。活動停止後も、そこで経験を積んだ人々は、教育現場や選挙、地域活動へと参加の場を広げていった。

学民思潮の歩みは、教育を受ける立場の生徒も、仲間を集め、方針を話し合い、社会に働きかけることで、政策を動かす力になりうることを示した。しかし、その経験を次の世代が自ら積むための場は、香港で失われつつある。学生の自治活動だけでなく、市民が政府の政策を批判し、責任を問う声も、国家安全の名の下で抑え込まれている。かつて学民思潮の生徒たちが、政策や制度を変えようと仲間を集め、公然と政府に異議を唱えることのできた自由な活動の場は、今日の香港では、もはやほとんど残されていない。

*本稿は2026年10月13日までに公表された資料に基づく。

引用文献

[1] Now新聞、警察本部前の抗議事件の判刑報道、2020年12月2日。
https://news.now.com/home/local/player?newsId=415090

[2] 美國之音、民主派初選の目的と過半数議席獲得に関する報道、2020年7月11日。
https://www.voachinese.com/a/frist-day-of-hong-kong-pan-democratic-legco-primary-elections-20200711/5498990.html

[3] 「47人案|九東區6人周五將求情 黃之鋒提反制中共 胡志偉被指對謀劃作承諾」法庭線。
https://thewitnesshk.com/47人案九東區6人周五將求情-黃之鋒提連結戰線反制/

[4] 黄之鋒「黃之鋒初選出線感言:感激市民授權抗爭派」中國人權転載、2020年7月。
https://www.hrichina.org/cht/wen-zhang-xuan-deng/huang-zhi-feng-chu-xuan-chu-xian-gan-yan-gan-ji-shi-min-shou-quan-kang-zheng-pai

[5] “HKSAR v NG Gordon Ching-hang & Ors; HKSAR v TAI Yiu-ting & Ors,” [2024] HKCFI 3298、量刑理由の公式概要、2024年11月19日。
https://www.hknslannot.gov.hk/en/home/pdf/HKCFI_3298_2024_en.pdf

[6] 自由亞洲電台、周庭の出所に関する報道、2021年6月12日。
https://www.rfa.org/cantonese/news/htm/hk-release-06122021085242.html

[7] Radio Free Asia、周庭の留学、深圳訪問及び帰港しない判断に関する報道、2023年12月3日(4日更新)。
https://www.rfa.org/english/news/china/chow-canada-12032023230511.html

[8] テレビ朝日、周庭の指名手配に関する報道、2024年2月6日。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000335929.html

[9] 「周庭多倫多畢業大談校園生活 畫祼模早有準備 學生恩物是Subway」星島日報、2025年8月3日。
https://www.singtao.ca/7229860/2025-08-03/news-周庭多倫多畢業大談校園生活+畫祼模早有準備+學生恩物是Subway-st-topic/?variant=zh-hk

[10] 「黃之鋒承認串謀勾結外國勢力罪 求情稱量刑起點應為3至10年」Now新聞、2026年9月2日。
https://news.now.com/home/local/player?newsId=660926

[11] 「涉勾結外國勢力案 黃之鋒認罪」香港電台、2026年9月2日。
https://news.rthk.hk/rthk/ch/component/k2/1868515-20260902.htm

[12] 麥燕庭「香港黃之鋒獄中六渡生辰 歐洲議會報告促放黃之鋒等政治犯暫未如願」RFI、2026年10月13日(署名付き転載を参照)。
https://www.bannedbook.org/bnews/zh-tw/headline/20261013/2369425.html

[13] 香港教育局、校内の政治活動に関する立法会答弁、2020年7月8日。
https://www.info.gov.hk/gia/general/202007/08/P2020070800304.htm

[14] 香港中文大学、学生会当選執行部に関する声明、2021年2月25日。
https://www.cpr.cuhk.edu.hk/tc/press/cuhk-statement-on-the-cabinet-of-the-cusu-executive-committee/

[15] 「長風破浪會有時——訪聯書院學生會工作小組」『中大學生報』2024年迎新刊、pp.56–58。
https://cusp.hk/wp-content/uploads/2024/11/2024_Orientation.pdf

[16] 「中大崇基學生會即日起停運 稱新時代下難履行學生代表使命」東網、2026年1月17日。
https://hk.on.cc/cnt/news/20260117/bkn-20260117193218074-0117_00822_001.html

[17] 香港中文大学逸夫書院、2026–2027年度学生団体の年度登録に関する通知。
https://www.shaw.cuhk.edu.hk/sites/default/files/public_file/Notice.pdf

[18] 「學聯宣布展開解散程序 旺角會址已不能營運」Now新聞、2026年2月5日。
https://news.now.com/home/local/player?newsId=635681

[19] 「據悉中大擬重新草擬學生會章程框架 校董認為大原則要守法」無綫新聞、2026年8月30日。
https://news.tvb.com/tc/1192246-據悉中大擬重新草擬學生會章程框架校董認為大原則要守法